Moje subiektywne spojrzenie na ○○○
九月の後半にしては異常なほどの外の暑さにもかかわらず、男は実にきちんとした身なりをしていた。仕立ての良いグレーのスーツの袖からは白いシャツが性格に一・五センチぶんのぞき、微妙な色調のストライプのネクタイはほんの僅かだけ左右不対称になるように注意深く整えられ、黒いコードヴァンの靴はぴかぴかに光っていた。
年は三十代半ばから四十にかけて、身長は百七十五センチあまり、しかも余分な肉は一グラムたりともついてはいない。細い手にはしわひとつなく、すらりとした十本の長い指は長い年月をかけて訓練され、統御されてこそいるもののこころの底には原初の記憶を抱きつづける群生生物を連想させた。爪は時間と手間をかけて完璧なまでに磨きあげられ、指の先に十個の見事な楕円を描いていた。実に美しくはあるが、どことなく奇妙だった。その手は極めて限定された分野における高度な専門性を感じさせたが、それがどのような分野であるのかは誰にもわからなかった。(『羊をめぐる冒険(上)』 97頁)
上、下二冊。村上春樹は『スプートニクの恋人』に続いて2冊目。ミステリー調のストーリー展開はとてもワクワクするもので、楽しんで読めた。『スプートニクの恋人』よりもストーリー性があったような気がする。どうしても主人公に感情移入ができないし、背中に星のある羊、ガールフレンド、鼠については最期まで釈然としなかった。2冊目の村上春樹を読み終わって、未だに彼の作品の読み方が掴めない。どうしても表面部分だけしか読むことができず、すっきりせずに終わる。もっと深読みしようと思っても、どう読めばいいのかわからない。さらに読むことで自分なりの読み方を見つけたい。運転手との名前に関する会話や、黒服の男の凡庸さの解説など、何の意味も無さそうなやりとりをどう捉えればいいんだろう。黒服の男の描写がなぜだか好きなので、引用。相棒の主観的な描写の部分のはずなのに、最後の「誰にもわからなかった」という書き方なのがまた面白い。